洗練された転職 エージェント
ヘッドハンターの話でも「最近はどこそこのあの技術をもっている人、ソフトウェアのかなめのところの仕事をしているあの人、と具体的に名前をあげて依頼してくる会社が増えている」ということである。
ドライな引き抜き合戦が起こるのは、もう時間の問題だということを日本の企業も人事担当者も内心で観念してしまっているかもしれない。
新人類的業界ともいえる証券界など、その点ではもっとはっきりしている。
限られた人材をめぐって、すでに仁義なき戦いが始まっている。
山一護券などは外国証券会社の人材補強の、まるで草刈場のようになっているともいわれている。
さきほどのヘッドハンターの話じゃないが、サラリーマンが世間における自分の値段を知りたがるようになったのは大変いいことである。
日本のサラリーマンはこれまであまりにも他流試合に弱すぎた。
あるいは他流試合をおそれすぎていた。
そのことが、むしろサラリーマンの立場をそれだけ弱くしている。
人材自由化が起こってきたことは、脱農耕民族型のしなやかなサラリーマンがボチボチあらわれてきているということである。
会社もサバイバル時代に向けてしたたかになってきて、いわゆる日本の温情主義を捨てて、そういつまでもサラリーマンに甘い顔もしなくなってきたかわりに、サラリーマンのほうも会社に対してあまり甘い顔もしなくなってきたのではなかろうか。
部下をつぶす気くばり上司私は日頃、組織の和だ、人望だ、人柄の良さだ、滅私奉公の精神だ、忠誠心だというようなことをあまりいいすぎる経営者や管理職をあまり買わない。
いまの日本の産業界の減量経営や人減サラリーマン絡差の時代をどう生きるからしの矛盾は、世間では社員思いと見られている経営者が平然と肩叩きをやっているところにある。
これは管理職も同じで、人柄が良くて気くばり十分だが、ちょっと能力に欠ける管理職ほど部下を逆につまらぬことにこき使い、部下の才能をすり減らしている。
あるいは部下の肩叩きをしてまで自分だけ生き残ろうとする。
日本的温情主義というへんな精神主義が、かえって会社を、そしてサラリーマンを偽善的なつらい立場に追い込んでしまっている。
むしろ会社もドライならサラリーマンもドライ、お互いにうらみっこなし、と割り切ったほうが長い目で見た場合プラスになる。
そうすれば会社も思い切った戦略転換ができるし、またサラリーマンも人生八十年時代のライフスタイルの構築に踏み切り、問題をこれ以上先送りしなくてすむように思われる。
M銀行のケースでもうひとつおもしろいことがある。
よくサラリーマンの処世訓などを読むと、だいたい課長とか部長に就任すれば、まず一年や二年は何も自分からは仕掛けない。
組織もいじらない。
その聞は仕事の流れや人間関係をじっとよく見ている。
これがいちばん大事なポイントだといわれていた。
ましてトップともなればなおさらである。
ところがM銀行のI頭取は大胆にも、就任早々、なんと社内三分の一にのぼる大人事異動を発表した。
そして自ら純血経営の伝統をやぶって、大量の中途採用に踏み切ったのである。
M銀行のI頭取がそこまでやった事情はおそらくつぎのようなものであろう。
ひとつは、金融自由化の動きがそれほど早いピッチで進んでいるということである。
もはや二、三年後にじっくりM銀行の組織を変えようとか、世代交替をやろうとか、人材の引き抜きをやろうという次元の話ではないということである。
金融自由化はすでに始まっている。
法規制はともかく、証券と銀行の垣根など、市場ではもう事実上つぶされていっている。
ノンバンク・バンキングの動きも何やら不気味である。
そのようにもう実質的に広い意味の金融自由化は始まっている。
それに立ち遅れているのが銀行である。
大がかりな国際化も証券化もいますぐやらざるを得ない。
人と組織を大胆に変えない限り競争に勝てないことが行員みんなにわかっているだけに、慣例を破ってここで一気に改革に乗り出しても、それに対する抵抗がかつてのように大きいものではないことが多分、Iさんにはわかっていたのだろうと思われる。
ところで、SグループのT代表は、これからは第三次、第四次産業の時代というよりも、むしろ花形産業、リード企業がない時代に突入すると話しているが、これは卓見である。
産業界の際がどんどん崩れているし、企業のコンセプトも時代とともに変わっていく。
アメリカの産業界はすでにそうなっている。
自動車も弱電も、鉄鋼もアメリカではきのうの産業である。
日本もいずれそうなる。
たぶん第一次産業と第二次産業と第三次産業の混沌社会に入る。
正確にいえば、これからどの産業も、第一次も第二次も第三次もハイテク化、情報化、サービス化しないと生き残れない時代である。
逆にいえば、流通業にしても、メーカーにしても、これから農業や水産業の分野へ進出することができる。
それをハイテク化、情報・サービス化という新しいシステムで再構築できるようになってきたからである。
いままでハイテク化、情報化ができなかったから、たとえば農業をやらなかっただけである。
ハイテク農業、ハイテク漁業の可能性も生まれてきた。
これからは第三次産業も第二次、第一次産業へ進出可能である。
また、逆のケースもあり得る。
花形産業、リード企業がなくなるというのはそういうことである。
まさにリード企業、花形産業なき戦略経営の時代が始まる。
だから人材の大流動が起こるのは当然の話である。
情報でも技術でもサービスでも、それを持っているのは人間しかない。
ソフトウェアとは何ぞやといえば、おそらく百人百通りの解釈や定義があるだろうが、ただひとつはっきりしているのは、それは人間が持っているということである。
そのうち日本の企業は圏内だけではなく、アメリカやヨーロッパの頭脳を買い求めるようになるであろう。
ことにコンピュータのソフトなど、コンピュータを最初に考えたイギリスの頭脳を買えばいい。
これだけ円が上がっているのだから、いくらでも優秀な人材が買える。
またレジャー産業の分野などでもおもしろい。
アメリカは技術流出でこりたから、知的所有権をめぐるトラブルに典型的にみられるように、ソフトの輸出はおそらく今後厳しくするだろう。
したがってそういう人材をめぐるスケールの大きい発想が、これから日本の企業では必要である。
こうした戦略発想への転換は、日本の企業はなかなか鈍いが、いったん走り出すとやはり早い。
そのことをサラリーマンは甘く見てはならない。
ともあれ、サラリーマンの転職が増えてきた。
転職のパイがふくれ上がってきた世の中というものを私はそう悪くないと思う。
転職にはもちろんピンチもあるが、反面敗者復活のチャンスでもある。
中高年のわれわれが会社にしがみついていたのは、健気な忠誠心、滅私奉公の精神というご立派なもののせいばかりではない。
日本人は昔からそんなに忠誠心のあった民族とも思えない。
徳川時代の「忠臣蔵」は例外的なケースであり、幕末の「旗本八万騎」の蹄抜けぶりはだれもが知ってのとおりである。
幕府が敗北寸前のときに尾張徳川も紀州徳川も、また旗本八万騎もほとんど何にもやっていない。
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